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スポーツのブログ

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[漫画] 田中圭一『うつヌケ うつトンネルを抜けた人たち』(角川書店, 2017)

漫画

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 うつ克服というより、易しい精神医学の本ですらある。とにかく、図の分かりやすさが素晴らしい。経験者にしか描けないであろう、正体不明の「うつ」という存在の重苦しさも痛いほど伝わる。お下劣サイテーパロディ漫画家としての田中圭一は何処へ、と不安にさせられるくらいだ。

 ところで、この本で一貫して強調されているのは、主観と客観、そして諦観である。

いかに「健康的なナルシシズムを取り戻すか」*1

という台詞が象徴するように、超主観的に自己を見つめ、そして愛すことがいかに健全かを説く。極度な自己否定がうつ状態を導くのは、うつ未経験者でも想像に難くないだろう。次に、自身の置かれている環境を俯瞰して処理し、誇大な被害妄想を解消するという客観。そして最も大切なのは、大槻ケンジの語る、

「不安」は消えることなく時々ちょっかいを出してくる困った存在だけど
いっしょに歩くことが可能なヤツだ*2

という諦観。僕が双極性障害に悩まされた時期、主治医に言われたアドバイスはすべてこの3つに集約されていたように思う。

 もちろん、うつの真っ只中にいる人間にとってこれらを意識することはとても、とても難しい。目が覚めてもベッドから出ることすらままならず、毎日20時間も眠りこける。薄黒い靄が脳いっぱいに詰まった人間が、そんなことを意識するのは不可能だ。多くの読者がAmazonレビューなどで指摘しているように、この本のうつヌケエピソードは、その大半が理解ある友人・家族がきっかけであることは特筆しておかなければならない。現に、自分の症状が快方に向かったきっかけも理解ある友人と家族の存在だった。

 だけど肝心の田中圭一は、宮島賢也『自分の「うつ」を治した精神科医の方法』(河出書房新社, 2010)がきっかけでうつヌケをしている。ある人は友人・家族、ある人は仕事、またある人は一冊の本…。何が脱出のきっかけになるかなんて、結局はその人次第だ。離人症的な無関心、過酷な労働、そして孤独という現代社会の諸問題が幾重にも絡み合った病巣の表層がうつである。みな同じ治療で同じように良くなる、そんな訳ない。これも一つの諦観だ。

 うつというのは、いつ再発するか分からない。特に双極性障害は基本的に完治することがなく、寛解にも膨大な時間を要するケースが多いと言われる。でもそんなの、うつの人間はみんな分かっている。だからとりあえず、楽に行くしかないんだよね。

まあnegativeに考え込むなよ

take it easy

兄弟で不安は消える

 

5lack - 夢から醒め

 

うつヌケ うつトンネルを抜けた人たち

うつヌケ うつトンネルを抜けた人たち

 

 

*1:p.89

*2:p.49